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再一歩 One More Step

 沖縄県立南部医療センターからか関西に移った神経内科医が、診療(心因反応も)や電子カルテの課題、電子出版プログラミング、フランス語や、神戸ライフを綴る。 時の流れに掉さして、ネットに恩返しができればと思う。

ニューヨーク州PCR検査、鈴木貞夫BuzzFeed2020年8月8日と般若漫談士

ニューヨーク州とフロリダ州のPCR検査数・陽性数と経済規制の経過の比較から、ニューヨーク州の患者抑制は単に経済封鎖によるものではなく、PCR検査体制の効果が示唆される。
NYandFloridaPCR1b.jpg

 元気な無症状感染者が広げる新型コロナウイルス。ワクチンがない現在、伝染抑えるには、全員の経済封鎖か、無症状感染者に検査して陽性者だけを隔離するしかない。そこで、注目されるのが、武漢とニューヨーク州。
 武漢で1千万人弱の一斉PCR検査を行い300人弱の無症状感染者を見つけ隔離し感染を抑えた。一方、ニューヨーク(以下NY)州では無料で無症状でも希望でPCR検査が受けられるまで件数拡大し、早期から接触追跡3000人が働き、他の州が感染拡大する中、拡大を抑えている。
 日本は緊急事態宣言で経済封鎖によって4月波を抑えたが補償が巨額を国民が知り、7月波に強い有効な策が取れなくなった。そこで、欧米並みに無症状者へPCR検査を広げるべきという声と、3月から検査を抑えることが正しいとする押谷尾身らとの、対立が続いている。そこへNY州の検査と新規患者数のグラフを7月27日Twitter(以下TW)に引用すると反響がありました。

図0、NY州の新規検査数と新規患者数
NYS陽性者testTrend0727

 おりから世田谷区がNY州を手本に検査・感染対策をするとの報道があり、グラフの重要性が増しました。この問題に深くない市民の中には、世田谷にNYが何の関係があるか分からないという声もありますが、感染症専門家には重要さ理解されています。
BuzzFeed2020年8月8日記事(1)、前半の感度・特異度は別な機会に論じますが、このグラフに対し名古屋市立大学公衆衛生学の鈴木貞夫教授が
「そもそも、ニューヨークではこれまでに既に3万2000人以上の方が新型コロナウイルスで亡くなっています。さらに、検査数と陽性者数のグラフを見てみると、感染者が減り始めたタイミングよりも、(無料検査などで)検査を拡大したタイミングの方が遅い。このデータを見る限りでは、陽性者の減少は検査によるものではないと私は思います」
と述べています。
 5月に当ブログで批判された(2)と同様、学者としてとても考えられない誤りです。
第1に、NY州でPCR検査が拡大されたのは、グラフでも分かるように6月以降です。医療崩壊はその以前の3月から5月に起きています。過去感染者多いNY州に学ぶ必要ないという素人の意見はありますが、学者としては失格です。
第2に、感染者が減ったのは3月22日からのロックダウン(外出制限、以後は経済封鎖とする)によるものです。この指摘をせず検査と関係ないというのは、千葉雄登記者にこのグラフどう思いますかと見せられ口を滑らしたという物語でもなければ、学者としての資質に同情するしかないです。この「新発見」には「エライ!」としか言いようがありません。

 次に登場、YouTubeで般若面を被った男性(3)、内容が良ければ講談師とする所ですが、内容がお笑いなので漫談士と呼んでおきます。彼も、鈴木同様にNY州大量感染があり参考にならないと素人に似た意見を言い、検査ではなく規制による感染抑止効果と述べています(狡猾なのは、規制緩和が早く行われたNY州を無視するためNY市にすり替えるところ)。

 本当はどうでしょうか?アメリカは世界1の感染者数ですが、経済封鎖により感染が4月下旬から減少し、5月規制緩和によって、6月から感染再燃しています。

図1、アメリカなどの新型コロナウイルス累計患者数
coronavirus-data-explorerUSAdaily.png

図2、アメリカの新型コロナウイルス新規患者数
USAdailyCases20200825JPG.jpg

 NY州での3-5月の感染爆発は経済封鎖で収まったのは事実です。しかし、6月からの「無症状でも希望で大量PCR検査」の効果について、同じような人口を持つフロリダ州(以下FL)州と比べてみましょう。州人口、NY:19,795,791人、FL:20,271,272人(4)、ほぼ同等です。

図3はジョン・ホプキンス大学のオンライン資料のNYとFLの日毎のPCR検査と陽性者数(すなわち新規患者数)を重ね合わせて筆者が作成しました。赤はNY、青はFLです。縦軸の最大値が10万という大変大きな数のため、4月は検査数・陽性数とも小さく見えますが、かなりの患者数です。
短棒で示した経済封鎖が3月NY、少し遅れ4月初めFLで始まり、患者数が減少し5月FL、NYの順で再開が始まっています。NYは以後患者数が減っているのに、FLは6月半ばから再び患者数が増え、再封鎖がかかりました。

図3、ニューヨーク州とフロリダ州の新型コロナウイルス日毎PCR検査数・陽性数と経済規制の経過
NYandFloridaPCR1b.jpg

 8月15日までの死者数過去8週間の合計は、NY州546人、FL州2852人。どうしてこの差が生まれたのでしょう?

 米NY州のクオモ知事は、大規模な検査、感染者が誰と接触したかの追跡、感染者や接触者の隔離の3段階が重要だと指摘し、5月4日の会見でも、「1カ月当たり住民の3%が検査を受けること」が各地域における経済活動の再開の条件だと訴えたとあります(5)。さらに、6月3日から、無料で、何度でも検査が受けられるようになりました(6)。
 FLは、患者増加に伴い検査の実施数は増加していますが、6-8月はおおよその4万件/日で、NYのような「だれでも」検査ではありません。このように検査の仕組みが違います。

図4、NY州およびNY市の地域別感染状況(7月27日、NY州政府)
NYS陽性者CountMap2s

 経済封鎖は両州とも対して変わりません。NY州では3月22日から経済封鎖となりましたが、5月から再開が始まり、6月19日にNY州のクオモ知事は新型コロナウイルスの第1波収束宣言しました(‘7)。7月からボーリング・美術館・水族館は開いています。NY市でも8月24日から美術館が再開(人数限定)になりました。テレビのニュースでは多くの有名な館があるので観光復活期待とのこと。(般若漫談士が言うようにNY市は7月もレストランの屋内営業禁止ですが、図4にある残りの大部分は屋内営業しています。これが彼のすり替えの理由)
しかし、FL州では4月3日から経済封鎖が始まり、5月に再開したが感染拡大し、6月26日にきつい再封鎖になっても感染拡大しています。

 また、彼がNY州は接触追跡がしっかりしていると述べています。あれ、クラスター対策で追跡は日本独自のはずでは? 実はアメリカは昔のHIV時代から接触追跡が日本では想像できないくらい充実していたのです。NY州では失業対策に接触追跡3000人臨時に雇用しており、筆者も早くからSNSで保健所恒久的増員ではなくても、夜の街対策を兼ねて接触追跡だけの雇用するように言っています。
 さらに彼はPCR試薬が不足といいますが、日本で試薬は3月で限界と言われたけれど整備されました。単なる彼の推測にすぎず、需要有れば供給が市場原理で、締切があるのではありません。実際、保健診療で1.8万円とされるPCR検査が、東京都の介護検査では2千円で企画されそうです。
 最後に、クオモNY州知事の「見つけるべき陽性者が存在する時だからこそ、検査を増やすにつれ陽性者が増えるだけ」が本質をいいあてている。

 なお、外国の論文対応のため掲載が遅れましたが、twitterでは鈴木教授の経済封鎖見落としをBuzzFeed記事発表直後から行いました。また、州の情報入手に協力いただいたA. Mainesさんに感謝です。

引用
1)https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/softbank-pcr
ソフトバンク、なぜ無症状の社員にPCR検査?
千葉雄登記者、鈴木貞夫にインタビュー BuzzFeed2020年8月8日
2)http://powriter.blog.fc2.com/blog-entry-337.html
鈴木貞夫教授2020年5月15日「PCR検査数/確定症例数」まやかし
3)https://www.youtube.com/watch?time_continue=6&v=SNth__Om_og&feature=emb_logo 玉川徹絶賛の「世田谷モデル(by保坂、児玉龍彦)」がダメな理由 2020年8月5日
4) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%90%88%E8%A1%86%E5%9B%BD%E3%81%AE%E5%B7%9E
5)https://www.asahi.com/articles/ASN5530PNN54UHBI01W.html
NY州、100万人がコロナ検査受ける 人口の5%超
藤原学思 2020年5月5日
6) https://note.com/tbsnews/n/n5953f0370389
7) https://news.yahoo.co.jp/byline/abekasumi/20200620-00184177/
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村中璃子「新型コロナウイルス、喉よりも鼻粘膜で増殖」は嘘

まえがき
村中璃子が、通説に従って「PCR検査増医療崩壊」を唱え、唾液検査で有利になったPCR検査に対し、足を引っ張る<喉よりも鼻粘膜で新型コロナウイルス増殖>と言及しました。確認のため医学論文をPubmed検索して検討し、そのような研究がないことを「再一歩ブログ」に載せました。今回Part2にあるように、科学者として真剣な反省が必要です。

村中ブログ20200621Part1

Part2発表までに証拠提示もあるかと十分な時間を空けましたが、何もないようです。今回作成に伴い、Part1を「新型コロナウイルスPCR検査の唾液と他検体との比較文献レビュー」に改題します。なお、他の重要な新型コロナウイルス課題を抱えているため、本稿を簡略に示すので語句の変更・追加があるかもしれません。

2020年6月15日村中璃子twitter
村中璃子20200615村上

 我が国では20020年2月25日専門家会議の発足から、対策班の押谷仁教授がPCR検査抑制を主張し、何人もの「感染症専門家」が追従しています。振り返れば「マスクは効果ない」「かかってもほとんどが軽症」「若者は少ない(*1)」と言っていたのも彼らで、彼女も同様です。
 新型コロナウイルス感染症は過去の感染症と違っており、文献頼る感染症専門家は当てにならないのはこのとおりです。我が国では2003年SARS被害少なくPCR検査体制が未熟といわれますが、専門家も実戦経験が乏しいのです。

ドロステンの発言
ドイツ、ベルリンにあるシャリテ(charityと同じく慈善の意味)病院のウイルス学 Christian Drosten教授が「新型コロナウイルスの変異が進み、肺よりも喉よりも鼻粘膜で増殖」と言ったと村中がtwitterで2020年6月15日紹介しました。この背景は書き出しのとおりでしょう。
 これに対し、ドイツ、フライブルク市の村上敦氏(都市・自然環境問題や新型コロナウイルスを発信)が、ドロステンを以前から追っているがそのような発言は聞いたことがないとすぐ村中に返信されています。筆者も医師としてPubmed検索(医学論文でgoogleに匹敵)からそのような研究が世界でないことを調べPart1作成しました。さらに、返信に引用のドイツ語資料も検討しました。
 これはドロステンの市民向け解説です。肺炎中心で重症であったSARSから、新型コロナウイルス感染症では嗅覚障害など上気道に病変が広がっていると述べています。後半で彼らの新型コロナウイルスSARS - Cov -2 自体の遺伝子変異の調査例を出していますが、変異はウイルスにも悪い結果が一般的であることを紹介しているだけで、これら変異が鼻で増殖を強くするとは一言もいっていません。 
ドロステンへのインタビュー者が「喉は上気道の一部」とはじめに断っています(図1)。彼らの話題の研究は米国ノースカロライナ大学のHouらの報告です。鼻と大気道(気管と主気管支)と小気道(末梢気管支)の粘膜を調べていますが、比較に喉の細胞は使っていません。これを離れ、ドロステンは鼻や喉に新型コロナウイルスがたくさんいると述べているだけです。「新型コロナウイルスが肺よりも喉よりも鼻粘膜で増殖」は嘘です。
(図1)
Illu_conducting_passages日本語

 彼女の問題はこれだけではないです。

テレビ解説を辞めるべき
 2020年4月3日テレビのミヤネ屋で、世界の動向からPCR検査は不足と言い、転向と驚かれたのは、研究者でなく単なる評論家なので許せます。
 同年3月4日の同番組では韓国のドライブスルーPCR検査で防御着を変えずに検査しており、自分なら受けないと非難しました。これにはすぐ反論があり、手袋を変えて採取が行われている動画が示されました。
 筆者が問題とするのは、その直前の400字にならんとする発言に全く論理がないことです。口は速く回っても頭は回っていないのです。本人も気づいていないだろうと思うのでここに掲載します。

<ミヤネ:PCRみんな受けた方がいい、、略
村中:PCRあまり意味ない。PCR何のためやっているかというと、先に言ったクラスターがどういう風に広がっているか追うために見ているだけなんです。PCRで新型コロナ見つかっても軽症であれば普通の風邪薬が出るだけです 解熱剤とか。重症になればもちろん人工呼吸器なりなんなり それは他の原因でも同じですので これが新型コロナと分かると何か特別なことをしてもらえると思うとそんなことなくて 治療に関係ありませんので こちらが検査してもらって何か分かるベネフィットあまりないです。> 227字
<村中 PCRは症状ある人を中心に見ていくと 重症化している新型コロナの人はどのくらいいるか十分把握できる。それは一番大事な指標ですよね。みんなが 元気な人がどのくらいいるかでなくて どのくらい重症化して どのくらいの人がなくなってしまうのか。そこにリソースを集中させないと乗り切れるものも乗り切れなくなってしまう。>150字 

 彼女が子宮頸癌ワクチン問題で激しい反感をかったのは、twitterに出すからと思いましたが、短文のtwitter以上にテレビ出演し口で話すのは難しいでしょう。執筆活動に専従すべきです。過去のジャーナリストとしての受賞の面子にこだわらず、科学者として真剣な反省が必要です。

(*1)筆者が知る限り、神戸大学の感染疫学者中澤港教授だけが、若者の罹患を軽視すべきでないと2月24日言っていました。

文献
Hou他、Cell 182: 1-18(2020年7月23日掲載予定)

「対策効果分析アドバイザリー・ボード」を正しく理解

・「対策効果分析アドバイザリー・ボード」に感染症専門家がいないと批判された。
・従来の専門家会議対策班の「思い込み」を検証するため、患者数予想が必要。
・日本に数理モデルあるが、AIを使った米国のGuのモデルが良いと言われている。
・狭い感染症学を越え、日本の頭脳を動員する役割を持つ、ボードのメンバー

対策効果分析顧問ボード設置
西村康稔経済再生担当相が従来の専門家会議を「廃止」し、6月23日にAI活用する「対策効果分析アドバイザリー・ボード」を設置すると発表。メンバーに感染症専門家がいないとSNSで疑問が投げられました。曰く「肺がんの手術を眼科医の医者が行なうようなもの」。 
 従来の専門家会議対策班の「思い込み」は別稿で扱うとして、ボードの意義が誤解されています。
 6月27日、NHKのBS特番「見えざる敵に挑むAI」で、利用が始まったスーパーコンピューター富岳による飛沫のシュミレーションが紹介されました。番組より先に西村発表がありましたが、これはエンジンでの燃料噴射シュミレーションプログラム応用したそうで、成果といえるほどではないと思います。
 「対策効果分析」は、京都大学教授藤井聡などによって議論が生じている経済封鎖(休業要請)の効果判定を、当事者である対策班によってではなく、より客観的に行うということでしょう。

感染症数理モデルについて
これまでの対策は、対策班の東北大学押谷仁教授などによって行われてきましたが、その基盤となるのは患者数予想であることは誰もが認めるでしょう。3月に患者数が増え続け、4月15日、北海道大学の西浦博教授が、「対策をとらなければ」日本で全人口の80%が新型コロナウイルスに罹患し40万人以上の死者が出るというSIRモデル(*1)を応用した試算を示して、国民に危険を知らせました。(1927年、スペインかぜの流行を解析するために英国で発表されたそうです。)
 しかし、1月20日から武漢市の封鎖(ロックダウン)があり(イタリアでは3月12日から)、4月8日には解除ですから、対策が取られないはずなく、「対策をとらなければ」という前提は本来「あ、そう」で聞き流すものです。しかし、競馬の「予想」のように受け止めた人たちから、(3月の)第2波が休業要請で小康になって、「外れた」とまるで責めるような発言がありました。
 これを誤解だという前に、4月 7日には政府が「特措法第32条第1項に基づく緊急事態宣言」を出していますから、4月15日には「死者40万人」と合わせて、努力すれば医療崩壊を防げる患者数想定を戦術目標として示すべきだったというのが筆者の意見です。
 このように重要な患者数想定に、この番組ではアメリカのYouyang Guが、死者数だけ使ったAIで感染予測をし、他のモデルより正確だったと紹介されました。しかしなぜか、これについてネット知識人でもあまり言及されていません。

 エコノミスト誌5月23日の図を引用します(図1)。

図1 アメリカの新規者死者数予想のモデル
EconomistYYGmodel1.jpg

 図左のワシントン大学の独立した研究センターHealth Metrics and Evaluation(IHME)のモデルでは、図の4週の薄青線で6月には基線に近く減ると予想していましたが、図中のGuのモデルでは同じ薄青線で下がりが悪いと予想がされています。
 実際の新規死者数を図2に示すと、Guのモデルに近いことが分かります。GuのモデルはSEIRモデルを発展させたもので、AI(人工知能)を使うとのことです。

図2 アメリカの新規者死者数 worldmeterから取得
DailyDeathUSA.jpg

 日本でも、2020年5月6日に小田垣孝、九州大学名誉教授(社会物理学)が、SIRモデルを改良したSQIRモデルで、検査によって隔離感染者(Quarantined)を分け、PCR検査を倍にすれば、接触「5割減」でも収束可能?と報道されました。

 また、東京大学大学院理学系研究科ヒトゲノム多様性研究室の大橋 順准教授は、数理生物学を専門とし、良く知られているSEIRモデルを使って試算されています。
大橋SEIR

 結論一部を引用すると;R0が2.5であるとき、60%(=1-1/R0)の人が感染すると感染は終息に向かう。対策を講じないと90%の個体が感染を経験。(ただし、この資料で扱ったSEIRモデルは、i) 年齢によるパラメタの違いを考慮していない、ii) 入院による発症者隔離の効果を考慮していない、iii) ウイルスに曝露しても感染しにくい個体の存在、などを考慮しておらず、90%は過大評価といえる) 外出制限など各人の行動量(他人との接触頻度)をいかに40%(=1/R0)に近づけるかが重要。発症者の行動量を50%にすることと45%にすることはそれほど大きな差ではないが、効果には大きな差がある。ほぼ全ての発症者が行動量を45%に下げたとしてもわずか1%でも行動を変えない人がいるとその効果は大きく損なわれる

 小田垣が感染症の専門家でないとの批判がありましたが、数理は社会学でも、大橋のように生物学でも使われます。

 これらモデルの評価をするつもりありませんが(参照記事)、数式をより精密にすれば予測が正確になると考えるのが普通です。しかし、ワシントン大学のモデルも図で3番目に新しい青色線からSEIRモデルに変わり、実際に近くなったといっても、Guのモデルではさらに増加が明らかで、高評価を受けています。
 この違いが何かというと、ワシントン大学のモデルは多くの要素を組み込んでいるにも関わらず、Guのモデルでは死者数という限られたもので動いているとされていることです。西浦先生も話されていたと思いますが、複雑であれば良いとは限りません。
 さらに、医療情報学会などでAIの講演を聞いていますが、教師データなしAIの開発はされているものの、通常の機械学習では教師データが必要です。新型コロナウイルス感染症は2019年末まで未知であり、中国や悪化ひどかった欧州の限られたデータでうまく行くはずないのに、AIを使ったからといってGuのモデルが高評価を受けることは必ずしも納得できるものではないのです。
 感染症の数理モデルは多数あるらしいので、これから発展する学問領域と思われます。

メンバーについて
京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥、政策研究大学院大名誉教授の黒川清、自治医科大学学長の永井良三、日本学術振興会顧問の安西祐一郎の各氏が、モデルを作成することはないでしょう。知らない人がいない山中先生は別として、黒川先生は腎臓病学専門というよりUCLAでの教授歴を生かして日本の医学教育や臨床研修に役割を果たした方であり、永井先生も循環器病学専門というより後進を育て高校生などの科学教育に熱意のある方とのこと。安西先生は工学出身で情報科学・認知科学が専門ということで、ここに欠かせないでしょう。
 私が私が見るところ、山中(神戸大学卒)は京都大学、黒川・永井は東京大学、安西は慶應義塾大学という、日本有数の頭脳集団に人的つながりを持って、感染症学という狭い学問領域では越えられない壁を打ち破る知恵を拾って来るでしょう。

 2020年7月6日の新型コロナウイルス感染症対策分科会が設置されました。たいして変わらないだろうと予想していましたが、設置後の短い経過を見る限りそのようです。「対策効果分析アドバイザリー・ボード」が、お飾りで済むわけがありません。

(*1) https://www.ism.ac.jp/editsec/toukei/pdf/54-2-461.pdf 
数理モデルの紹介がとても良く書かれています。
感染症流行の予測:感染症数理モデルにおける 定量的課題
西浦 博・稲葉 寿 統計数理(2006)第 54 巻 第 2 号 461–480


ユニークカード(コード)の提案 その1

ユニークカード(コード)提案ver0.3
1)全世界でQRコードによる個人IDを市民が任意に取得。
  パスワードが必要、メールアドレスは不要。
2)QRコードにはIDと郵便番号と10歳刻みの年齢階層を含む。名前含まず。
3)クレジットカードサイズ(スマホ画面可)にQRコードとサングラスなし顔写真併置
4)体温測定など体調について情報をアプリで簡単登録し、1ヶ月間国毎サーバーに保持。
5)QRコードを店などがスマホで読むことを利用条件とすることが可能。顔写真については指などで隠す選択もあり。
6)PCR検査などの適応に情報を利用する。AIで優先順位を付け、医療機関(保健師も可)が順位を参考にする。
7)診療ではない抗体検査結果などもこのコードに結びつける。
8)検査で新型コロナウイルス感染が陽性となれば、あらたな公的登録システムにweb上で引き継ぐ。

 7については、東京大学 先端科学技術研究センターの児玉 龍彦先生が提唱されるパンデミック番号にも相当するでしょう。

 次々現れる課題で、3月以来大事と考えているユニークカード(コード)構想が遅れています。文献疫学者には「これ何?」でしょうが、無症状感染者が感染を広げ、保健師の手にも乗らない新型コロナウイルス感染症の解決には、これが必要と確信しています。説明は足りないですが雛形を提示して、同様なアイデアを誘導できればと考えます。

 「ユニーク」という意味は「1義的」という意味です。情報の登録は平時でも継続し、感染症勃発のモニタリングに役立てます。強権的な国では感染情報を過小評価することがあるので、NPOなど民間が運営します。症状など簡単な登録情報は特定アプリではなくwebIT技術で誰でも解析可能とします。AIで優先順位が付けられるかは今後の課題ですが、国ごとあるいは国をまたいで、感染症学者やIT研究者の魅力ある課題になるでしょう。
 日本で利用されるスマホの接触アプリは位置情報を全く出せないので疫学に役立ちません。スマホを持っていない人もいます。ユニークコードは郵便番号を含むので発熱の地域発生など知ることができます。ただし、1―2人だけの該当者は、解析プログラムの方でより広域な地域の情報として表示することをプログラム作成者に倫理条件として守らせ、不用な個人情報露出にならないようにします。
 店が提示されたコードを3週間記録し、感染があった場合は接触が疑われるコードを公開し、客が自分のコードが含まれているか確認することができます。Bluetoothによる接触アプリの補完ができるでしょう。
 カード自体も健康保険証など価値あるものではなく、低開発国でできるよう、QRコード読み取り可能な印字品質で紙に印刷してラミネートして使うなど低コストの運用です。
 質問があれば歓迎です。

2020年7月24日追記:読み直したら、今後記述予定の交通機関利用時にカードを示すことが含まれていませんでした。香港などと同様に陽性者はアラートが出される仕組みです。googleなどの接触アプリより厳しいでしょう。

新型コロナウイルスPCR検査の唾液と他検体との比較文献レビュー

Part1、唾液と鼻咽頭でPCR検査、Yale大Wyllie論文に合わない報告は劣っている
Part2、ドロステンは「喉よりも鼻粘膜で増殖」と言っていない (次回)

村中璃子が「ドロステン氏が、喉よりも鼻粘膜で増殖する傾向に遺伝子変異」というので、PubMedで文献検索して確かめました。PubMedは<医学文献のGoogle>ともいえるデータベースです。

 本題に入る前に、「paired(対応あり)検体」を理解しなければなりません。簡単に示すと、菓子Aと菓子Bの一方だけを食べてもらいどちらがが好まれるか判断するのと、両方食べてもらいどちらが好まれるかを判断するのとでは、判定者の数が同じなら、後者が前者より適切ということは理解されるでしょう。この後者が「対応あり検体」に当たるもので、研究デザインは優れています。しかたなく、対応ない検体で行う研究もあります。

 saliva nasopharyngeal SARS-COV-2 growthをキーワードにしてPubMed検索の44篇に該当なし。saliva nasopharyngeal swabs COVID-19 PCRで検索の163篇+関連文献を検討しました。

 新しい測定法で唾液でもできたという程度のものあり。中国のToは12例 (1)、イタリアのAzziは25例(2)だが比較なし。韓国のYoonは2例(3)だけで比較は困難。
Yoon.jpg

 4月22日審査前論文だが最良と思われる、アメリカのYale大学Wyllieは、44例(4)中の29例で唾液(自己採取)と鼻咽頭拭い検体(医療従事者採取)を同時比較した38対で、ウイルス量が唾液に多かった。対でない検体も入れた比較では唾液の方が鼻咽頭より5倍多かった3日毎に両方の検体を経過中採取しており、研究デザインが優れている
20200416WyllieFig1.jpg

 5月、タイのPasomsubは200例(5)。結果は下図だけ、有意差ありとされるが、陽性18と19例で1例の違いのみで、例数が増えると疑問です。
PasomsubTable2.jpg

6月、北海道大学Iwasakiは76例(患者10、疑い66)で鼻咽頭と唾液で差はなし(6)。

唾液ではなく咽頭拭い検体と、鼻咽頭拭い検体との比較に広げると3篇あり。

3月、中国のWangが新型コロナウイルス患者205例のPCR検査を、気管支洗浄液などいろいろな検体を用いて行っています。398例(7)という大多数ですが対応なしで、咽頭拭い検体は陽性32%、鼻拭い検体はわずか8例で陽性63%です。
 %だけみると鼻の方が陽性率高いと思うかもしれませんが、鼻と咽頭が対応ありになっているのは、図1で示す薄青丸の5例に過ぎず(左側の第2例は他が気管支洗浄)、鼻が良いのは4例と極めて少数、1例は逆です。説明は略しますが縦軸は上ほどウイルス量が多いと考えられ、その4例も咽頭検体との差は大きくないです。よって著者も鼻が咽頭より良いとは言っていません。
流行初発の中国では研究計画を立てることもできなかったでしょう。一流誌とされているJAMA(アメリカ医師会雑誌)に載ったのは、3月という早い時期に多数症例だからでしょう。
jama-323-1843-g001Wang.jpg

 6月14日J Pediatric Infect Dis Soc誌にシンガポ-ルのKamは、小児11例(6例無症候)と少数で、2例は鼻咽頭だけ陽性(ウイルス量は多くない)だったが、鼻咽頭は8日間追跡したが、頬採取は2日連続して陰性になると以後採取中止という、完全な対応ではない調査(8)であった。その2例も、3日目以降唾液検査せずで、Wyllieほど信頼できず。 
KamJPIDS.jpg

 アメリカのTuは、医療者が採取した鼻咽頭検体と、自己採取で舌や鼻や中鼻甲介から採取検体とを比較し、鼻咽頭以外の鼻や舌からの検体も有用としている(9)。鼻咽頭検体が自己採取舌検体より良いとされているが、図Aで示すウイルス量の回帰曲線は相関係数も小さくもっと傾きがありそうで、それほどの差は期待できそうではない。NEJMは一流誌であるが「手紙Correspondence」扱いの短報。
TuNEJM2.jpg

TuNEJM1.jpg

 まとめると
科学的な論文は、いったり戻ったりを繰り返しなが定説になっていくもの。唾液と鼻咽頭を比べると、Wyllie論文が最も研究デザインが良く信頼できると思われる。
 舌など口腔拭い検体と鼻咽頭では、後者がわずかによいようだが、不快感や感染リスクなど短所を埋めるほどの差とは思われない。 もちろん、「喉よりも鼻粘膜で増殖」は別な話しである。

 2,020年7月18日追記: Part2作成の伴い、本題と出だし一部を変えました。

文献
(1) Consistent Detection of 2019 Novel Coronavirus in Saliva
K.K. To, et al Clin Infect Dis. 2020 Feb 12 : ciaa149.
(2) Saliva is a reliable tool to detect SARS-CoV-2
L. Azzi, et al J Infect. 2020 Jul; 81(1): e45–e50.
(3) Clinical Significance of a High SARS-CoV-2 Viral Load in the Saliva
JG. Yoon, et al J Korean Med Sci. 2020 May 25; 35(20): e195.
(4) Saliva is more sensitive for SARS-CoV-2 detection in COVID-19 patients than nasopharyngeal swabs
AL. Wyllie, , et al doi: https://doi.org/10.1101/2020.04.16.20067835
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.16.20067835v1

(5) Saliva sample as a non-invasive specimen for the diagnosis of coronavirus disease 2019: a cross-sectional study
E. Pasomsub, et al. Clin Microbiol Infect. 2020 May 15 doi: 10.1016/j.cmi.2020.05.001 [Epub ahead of print]
(6) Comparison of SARS-CoV-2 detection in nasopharyngeal swab and saliva
S. Iwasaki, et al. J Infect. 2020 Jun 4 doi: 10.1016/j.jinf.2020.05.071 [Epub ahead of print]
PMCID: PMC7270800
(7) Detection of SARS-CoV-2 in Different Types of Clinical Specimens.
W. Wang et al. JAMA. 2020 Mar 11;323(18):1843-4. doi: 10.1001/jama.2020.3786.
(8) Clinical Utility of Buccal Swabs for Sars-Cov-2 Detection in Covid-19-Infected Children.  (CORRECTED PROOF)
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Yuan-Po Tu, et al. N Engl J Med. 2020 Jun 3 : NEJMc2016321. Published online 2020 Jun 3. doi: 10.1056/NEJMc2016321
PMCID: PMC7289274